結城の暮らし INTERVIEW 結城での多様な暮らし方を実践する方々に、結城の暮らしについてあれこれ伺います。

心強い味方がいたからできたお菓子作り|FLOUR BASE 105 店主 生沼由香理 さん

結城駅北口から徒歩1分、結城の玄関口に「FLOUR BASE 105」(フラワー ベース105)はあります。

FLOURは「小麦」、BASEは「基地」という意味で、もともとはアパートの105号室から始まったことが店名の由来です。店では、冬は焼き菓子、夏はかき氷を販売しています。どこを切り取って撮影しても映える、こだわり抜かれた空間で、「見ても食べてもおいしくて楽しい」お菓子を販売しているのが、栃木県出身在住の生沼由香理(おいぬま・ゆかり)さんです。     

老舗との掛け算で生み出されたお菓子の魅力

文化と伝統のまち、結城。結城市の北部市街地には酒蔵や味噌屋など多くの「老舗」が営み、南部の広大な農地では肥沃な土壌で農作物が育っています。北部には時代を経るにつれて変化が訪れ、個性豊かなパン屋やカフェが続々と出店しています。

「FLOUR BASE 105」の店頭には、「武勇さんの酒粕クッキー」や「秋葉味噌さんの味噌マフィン」「甘酒プリン」など老舗とコラボレーションしたお菓子のほか、結城で採れた「あべたさんのトマト」を使ったかき氷など、結城ならではの商品が並びます。     

これらの商品の誕生に関わっているのが、飯野勝智(いいの・かつとし)さん。「市内の神社境内や蔵でマルシェやコンサートなどを開催するイベント『結い市』(ゆいいち)の企画で、地元の産品とかけ算した商品開発を毎回行なってきました」と話します。ここの企画のなかで、生沼さんにも「こういった地元素材をお菓子に使えないか」と声がかかりました。

今でこそFLOUR BASE 105の定番となった商品開発ですが、伝統を守ってきた老舗の輪の中に受け入れてもらうことは簡単ではなかった、と生沼さんは振り返ります。

「結城で長くお店をされている老舗とのコラボレーションには特に緊張しましたね。商品開発をスタートさせた時はお互いに慎重でした」

飯野さんは、老舗が大事に作ってきた商品を生沼さんが活かせるのか、両者で確認し合う作業を間近で見ていたそうです。

「とても良い時間だったと思います。商品として形になった時には、自社商品が使われていることを嬉しく思うのではないでしょうか。結城の人々もそれから少しずつ変わって、新しい取り組みを柔軟に受け入れてくれるようになったと感じます」

「結い市」を通して時間をかけて関係性ができたことで、さらに踏み込んだ商品開発ができるようになりました。今では、FLOUR BASE 105専用の甘酒を作ってくれる酒蔵もあります。生沼さんの「おいしいものを作りたい」という想いと地元店の懐の深さが、さらなる“おいしいもの”を生み出すエレメントになっているのです。

結い市から始まる結城出店物語

生沼さんが、植物関係の仕事のかたわらイベント出店を始めたのは2010年。同年に始まった結い市に出店したことをきっかけに、結城の人との関係を築いてきました。

「結い市」を運営していたのは、結いプロジェクト代表の飯野さんでした。飯野さんはこの縁が元で、のちに「FLOUR BASE 105」の設計を行うことになります

「結い市でのご縁があったので、自分のお店を持つなら結城と決めていました」と話す生沼さん。結城市の住人ではないことに不安はあったけれど、同時期に、同世代の人が結城でお店を開くことになって「新たに始められるんだ」と勇気をもらったといいます。

開業にあたり、生沼さんが相談を持ち掛けたのは飯野さん。物件を一緒に見て回ったものの「ここ!」と思える場所がなかったそうです。そんな生沼さんに飯野さんは、「僕が事務所を構えているこの場所で店をやらない?」と持ちかけました。

それに対して、生沼さんの反応は「おもしろい!」。話はとんとん拍子に進みます。

改装期間は1か月。店舗の正面は、通りに対して斜めに開けた造りになりました。これは、飯野さんの考案です。建物をまっすぐ通りに向けると通りかかる人が通り過ぎてしまうと考え、目が合う距離感で挨拶ができるようにという想いを込めました。

「斜めにするという発想はなかった」という生沼さん。改装作業には生沼さんも加わり、一緒に行いました。場所の決定から開業までテンポよく進んだのは、設計や改装作業、水道、電気など、「身近にすぐ動いてくれる地元業者さんがいたから」と生沼さんは当時を振り返ります。

物件の古さが原因となるトラブルもあるとは言いますが、迅速にフォローしてくれる心強い味方が、このまちにはいます。

レトロでありモダンでもある結城の「美味しさ」を伝える架け橋に

結い市から始まり、結城へ出店してから約4年。「もっと結城になじみたいという思いはあるので、今後も自分から地元の素材を探していきたい」と語る生沼さん。結城で生まれる素材のおいしさをお菓子を通して知ってもらうことで、若い人が地元に目を向けるきっかけとなってほしいと言います。

生沼さんはすでに、結城の「おいしさ」を人々に伝える架け橋となっています。

取材・執筆:ふくださおり
筑西市在住。祖母の家が結城市にあり、幼い頃からよく遊びに来ていたため結城は庭である。織り子をしていた祖母が織った結城紬の切れ端を、今でも大切に持っている。

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