熱いサウナに結ばれたアツアツの輪|結城市地域おこし協力隊/株式会社ジョン・ゴーマン代表取締役 早川修平さん
結城の駅前蔵通りのシェアスペース「Coworking & Café yuinowa」(コワーキング&カフェ ユイノワ)の一画にあるのは、旧呉服店の蔵を再利用した「KURA SAUNA」(クラ サウナ)。
早川修平さんは2021年4月から結城市初の地域おこし協力隊員に就任し、結城市北部市街地の活性化と関係人口創出のために活動する一方、KURA SAUNAの経営にオープン前から現在まで携わっています。
秋の柔らかな日差しとセレクトされた音楽に包まれて心地よさを感じながら、KURA SAUNAで起こる人と人、人と町の交流の物語や、地域おこし協力隊員としての活動のお話を伺いました。
KURA SAUNAの始まりは最後の一軒から
学生時代からサウナに魅了され、就職後も日本各地のサウナを巡っていた早川さん。サウナを開業したいとの思いが募り、候補地を探して多くの土地を訪ねるなかで「あと一軒だけ見てみよう」と最後に足を運んだのが結城市でした。
ほかの町と同様に、不動産屋さんとの交渉から始まることを早川さんは予想していましたが、迎えてくれたのは意外にも、一級建築士の飯野勝智(いいの・かつとし)さんと結城商工会議所の野口純一さん。結城市で活動する「結いプロジェクト」の中心メンバーであるふたりは、さっそく早川さんに町を案内し、結城の歴史や自分たちの活動を熱く語り、旧呉服店の蔵を紹介したのです。
ゼロからの起業で不安も感じていたなかで結城での開業を決めたのは、ふたりの熱意に背中を押されたから。サウナ作りを助けたのも、ふたりの人脈でした。早川さんは地元の大工さんに施工してもらいながら、自分でもできる簡単な作業を教えてもらったそうです。近所の秋葉糀味噌醸造さんからは、サウナに欠かせない水風呂の風呂桶を譲ってもらいました。
「まったく縁のなかった結城で開業できたのは、飯野さん、野口さんとの出会いに尽きる。町の人にも協力してもらい、楽しくて心強かった」とオープンまでの日々を振り返ります。
地元との連携を大切に、新しい交流の場をつくる
完成したKURA SAUNAのサウナは二階にあります。そこへ続く階段にも、築90年を超える蔵の歴史が息づいているかのよう。蔵の外では、鬼怒川の伏流水かけ流しの水風呂や、古民家の中庭でくつろぐ外気浴など、結城でしかできない“サウナ体験”を堪能できます。熱源に薪を使用していることも珍しいのだとか。
地元の飲食店の協力で、テイクアウトや出前をしてもらっている「サウナ飯」も楽しみのひとつ。入場者は最大10名と、密にならないように配慮されていて、ゆったり過ごすことができます。
こうして地域資源を生かしているうえに、厳しい規制のある公衆浴場法の許可を取得したことは信頼の証。お客さんにはリピーターが多く、首都圏から来る人もいるという話には納得です。人とのつながりを大切にしているからこそ、お客さんが店を営んでいると聞けば、機会をつくってその店を訪ねることもあるそうです。
今は、今後さらに地域との連携を深めていく方法を模索していると言います。
「例えば、ここでヨガレッスンをした後にサウナを利用してもらうなど、地域で他の活動をしているほかの人とのつながりの場をつくっていきたいです。そうやってつくった場所に人が来てくれて、新しい交流が生まれると、やりがいを感じるしすごく嬉しいですね」と、早川さんの想いはどんどん広がります。
地域おこし協力隊発「結城マチナカ大学」
サウナのみならず、結城市地域おこし協力隊員の活動にも力を入れています。隊員募集を知って「おもしろそうだし、ぜひやってみたいと思った」と語る早川さんは、社会人の学びの場である「結城マチナカ大学」を2022年に開講する予定。地域の活性化を図ろうと奔走しています。
社会人の部活動やサークル活動をイメージしたこの大学には、市内外の誰もが講師や受講生として参加できるとのこと。参加者が自発的に好きなことで活動することを目指し、あえて“大学”と命名しました。
各活動は“学科”と称します。早川さんが担当する“サウナ学科”では、サウナの入り方やサウナが健康に与える効果などを講義するそうです。さらに、市や結いプロジェクトと連携し、地域の事業者に講師として迎え入れることなども考えています。
協力隊員に任命されたことで、早川さんと地域のつながりはますます広がりました。町の人にも顔を覚えてもらっていて、通りを歩くと「広報誌見たよ」「サウナがんばってね」などと声をかけられることも。
「協力隊員をやってよかったです。地域の方にも理解して頂いていますし、隊員としての使命のもとに、方法や過程を任せてくれる結城市は懐が深いです。自分は恵まれているなと思います」
結城は始まりの地、大切な町であることは間違いない
「ここでサウナができたのは、縁というか運が良かった。好きなことを仕事にできて、楽しみながらやれている」
KURA SAUNAはこれからもどんどん、地域に根差したサウナになっていくのでしょう。
早川さんは結城を第二、第三の故郷と考え、これからも「多分一生関わっていく」「結城でサウナをやりたい人が訪ねて来たら、全力でサポートする」と真剣な表情で話します。早川さんが町の人たちや飯野さん、野口さんから受けとった暖かさと町おこしのバトンが次の人へと渡される日は、そう遠くないのかもしれません。
取材・執筆:館野都
結城へは月に数回来訪して、家庭菜園を楽しんでいます。町歩きとハーブ料理作りが好きです。