結城の暮らし INTERVIEW 結城での多様な暮らし方を実践する方々に、結城の暮らしについてあれこれ伺います。

新しい日本酒の世界を目指し、日々腕を磨く|株式会社武勇・深谷篤志さん、保坂大二郎さん

江戸時代から酒造を行う「株式会社武勇」では、2020年に「常陸杜氏(ひたちとうじ)」の資格を取得した深谷篤志さんが活躍しています。武勇の専務である保坂大二郎さんにも同席いただいて、お話を伺いました。

杜氏の働き方改革を行った武勇

1867年に創業した創業した「株式会社武勇」は、全国に先駆けて杜氏の正社員雇用を始めた蔵元です。

「昔は、関東に杜氏はいませんでした。新潟県の越後杜氏や岩手県の南部杜氏に来てもらい、酒づくりを行うのが通例でした」と話すのは、専務である保坂大二郎さん。日本酒づくりの季節は、基本的に12月から2月の冬の間だけ。杜氏の人たちは、季節労働者として武勇の酒づくりをしていたのです。

その伝統を改革するきっかけは、1990年ころに越後杜氏の後継者問題が持ち上がったこと。保坂さんは、杜氏の育成を社内で行うことを検討し、社内の設備を整え、酒造りの期間を伸ばす取り組みをスタート。結果、杜氏を社員として通年雇用することができるようになりました。

その取り組みは、その数年後に東京農業大学の醸造科学科へ入った深谷篤志さんの耳にも届きます。

「新潟や岩手からの出稼ぎに頼らない日本酒づくり、という新しいスタイルを確立されたことで、専務は大学内でも評判でした。以前は夏には仕事がなかった杜氏でも、改革によって年間を通して仕事があんていするようになった。。今ではあたり前になりましたが、業界には衝撃的な取り組みでした」(深谷さん)

「人の雇用と酒造りの両輪を成り立たせるのに苦労しました。変革から現在までの30年でも、酒造りを行う環境や酒造業をとりまく環境が少しずつ変化しています。それに適応できるよう、いまでも改革は少しずつ進めています」(保坂さん)

日本酒づくりは自然の営みとともにある

深谷さんが保坂さんに会ったのは、大学2年生のころでした。深谷さんは醸造科学科、保坂さんは農業化学科と科は違うものの、二人の母校は奇しくも同じ、東京農業大学。保坂さんが先輩として訪れた文化祭で「酒蔵見学をしたい」と希望した学生の一人が、深谷さんだったのです。

「大学に入ったばかりのときには醸造をとくに意識していたわけではなかったのですが、ご縁あって専務に出会うきっかけを頂いて。『酒造に興味があるならどうだろう』とお誘いいただいたのと、わたし自身も追求していくには楽しそうな仕事だな、と思いました。思い返すと、お酒を造りたいという気持ちよりも『ここで働きたい』と感じたのが強かったと思います」(深谷さん)

入社して20年あまり経った現在、深谷さんは、「もとや」という肩書で「酛(もと)」つまり酒母(しゅぼ)を育てています。酒母とは、酵母を大量に培養したもの。酒母と蒸し米と麹、水とを混ぜた「もろみ」から、日本酒のもととなる麹(こうじ)ができるのです。

深谷さんが作業するのは、10月から5月の間。作業が冬になるのは、温度が鍵となるからです。

「基本的には、麹と水と蒸米を混ぜ、温度管理で酵母を培養していきます。硝酸還元菌が増えることにより亜硝酸が増え、その後乳酸菌が増え、8℃になるころには、乳酸菌が出す乳酸でほぼすべての菌が死滅するなかに酵母が生き残る。お酒づくりは菌の世界の自然の営みを利用しているんです」(深谷さん)

自然の営みにはある程度の法則があり、その営みを使用している酒造りには“型”があるといいます。だからこそ、自分の気持の“ぶれ”に気をつけている深谷さん。

「作業した翌日に菌の様子が型と違っていても、菌はただ自然の流れに沿って動いただけ。その環境をつくっているのは自分です。でも人間は、『楽しい』『疲れた』といったその日の気持ちに合わせて動いてしまうもの。気持ちの“ぶれ”をなくし、ニュートラルな気持ちで菌に接することができるように毎日心がけています」(深谷さん)

保坂さんいわく、昔から「もろみと対話しろ」と言うそう。伝統的な酒造りの精神が、引き継がれているようです。

日進月歩の時代、伝統と新しさを取り入れた酒造りを

2019年に茨城県酒造組合により、「常陸杜氏」の資格制度が始まりました。この資格は茨城県で日本酒づくりに携わる杜氏の育成を図るもの。小論文や実技など合計4つの試験を受け、合格した人に与えられます。2020年12月現在、この資格を持つ人は合計で6名。深谷さんは2020年に資格を取得した一人です。

保坂さんは深谷さんに、ここをスタートに個性を発揮して欲しいと願います。

「自身の個性を活かして、 独自ののスタイルを作ってもらいたいと思います。ほかの蔵人もみんな『武勇』という名前を冠しつつも、各々の個性と得意を延ばして欲しいですね」(保坂さん)

「茨城県は、日本酒の材料がすべて揃う珍しい県です。『ひたち錦』という酒造好適米が生産され、麹菌のメーカーさんもいて、日本醸造協会が頒布する酵母(協会酵母)の『小川酵母(協会10号酵母)』もある。とくに小川酵母は、茨城県に縁の深い 酵母です。。“オール茨城”の日本酒が生まれるポテンシャルがあることをアピールしながら、常陸杜氏として茨城の良さを伝えていきたいと考えています。ちょうど今は、茨城県内でも酒造の人材が育ち、酒どころとして注目度が上がっている時期。製造方法も日進月歩の時代なので、古いものと新しいものを取り入れながら酒づくりにはげんでいきたいと思います」(深谷さん)

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