結城の暮らし INTERVIEW 結城での多様な暮らし方を実践する方々に、結城の暮らしについてあれこれ伺います。

笑顔で伝える酒づくりと結城の魅力|結城酒造株式会社・浦里美智子さん

茨城県には36の酒蔵があり、関東地方で最も多く酒蔵を持つ都道府県。その理由の一つが、豊かな自然とともに、美味しい酒造りに必要となる水脈(久慈川、那珂川、筑波山、鬼怒川、利根川の5水系)に恵まれていること。

その中でも結城市は茨城5水系のうちの鬼怒川水系の恵みとともに、酒造りに適した冬の寒さと乾燥という気候条件も兼ねそろえている地域。

今回お話を伺ったのは、江戸時代末期、安政年間に茨城県結城市に創業した結城酒造株式会社の副社長で杜氏の浦里美智子さん。美智子さんは、令和元年に茨城で醸造技術向上のために開始された常陸杜認定制度で最初に認定された3人の常陸杜氏のうちの1人でもあります。

伝統ある酒蔵の副社長かつ女性杜氏という肩書からの想像とは異なり、美智子さんは朗らかで気さくな方で、笑い声とともに酒造りと結城に対する思いをお聞きすることができました。

心を込めた美味しい日本酒をつくりたい

今では常陸杜氏として酒造りのスペシャリストになった美智子さん。しかし、美智子さんが結城酒造に嫁いできた当初、最初から日本酒造りへの興味があったわけではありませんでした。きっかけとなったのは、結城酒造ので造られた搾りたての日本酒を初めて飲んでその美味しさを知ったこと。そこから日本酒への興味が深まっていったそうです。

結城酒造では、以前は地元流通の手ごろな価格の日本酒を造っていたそうです。しかし、美智子さんの日本酒への目覚めとともに、冬にしかない酒造りの期間に、少量でも自分たちの心を込めた美味しいお酒を造りたいという思いが膨らみ、10年前に特定名称酒へと方針を切り替えました。

そうしてつくり上げた日本酒が、「結ゆい」。ラベルは結城市の書家に書いていただいたもので、結城の「結」の字を崩し、「糸」を繋いで「吉」を囲むデザインとなっており、人とお酒、街を結んでいきたいという思いも込められています。

結城酒造では、美味しいお酒を造るだけでなく、酒造りに込めた思い、背景を伝えていくということも大切にしており、そんな中で美智子さんは、結城酒造の酒造りの思いをストーリーとして伝えるべくSNSも活用して発信してきました。

そこには、美智子さんにとって搾りたての日本酒が自らの日本酒の世界を広げたきっかけであったように、様々な人に日本酒への思いやストーリーを知ってもらい、日本酒に興味を持ってもらいたいという思いも秘めています。

これまでこういった努力を積み重ねて、「結城酒造のお酒は美味しいね」と選んでくれるお客さんを増やしていっただけでなく、「結」の都市部への出荷も増えていったそうです。こうした広がりは、SNSでの発信だけでなく、出荷先の酒屋さんからの紹介などの力も大きく、「結」の名のごとく、込めた思いが伝わり、実を結んだ成果ではないでしょうか。

「結」をきっかけに、また結城に来てほしい

リアルな酒造りの現場を見られるのが、結城酒造見学の魅力の一つ。観光地としてではなく、製造のための酒蔵。そのため、観光、見学用の設備や人を設けていませんが、冬の午前中など酒造りに集中しなければならない時間帯以外は、見学の対応や酒造りの説明なども行っています。

立ち寄った人が「結」をお土産としていただき、それを飲んだ人が結城に興味を持って、結城に訪れる人が増えるというきっかけになればとの思いを込めて、蔵の中でも販売しています。

結城酒造のお酒は製法や使用米の違う「結」を含めて現在12種類。それぞれの味わいがあるので、何度も蔵に足を運び、そのたびに様々な味の「結」を買っていく楽しみも生まれるのではないでしょうか。

さらに美智子さんは、見学しにきた人に応じて、結城の見どころもお話するそうです。来ていただいた方には結城にまた来てもらいたい。少しでもいい気持ちで帰ってもらいたい。そんな思いで接し、情景としての結城の良さが伝わるように心がけているとのことです。

実際に結城で暮らしている美智子さんのおすすめは、冬の朝の、結城の街。冬のピーンと刺すような冷たい空気の中、結城酒造や他の酒蔵から米を蒸かしている蒸気があがっており、味噌蔵からつくりの香りが立ってくる。そんな様子が街のなかで感じられるのは、冬の朝の結城ならではの情景とのことです。

結城酒造には、酒蔵巡りはもちろん、街歩きのついでに立ち寄るのもよし。気さくな美智子さんのお話を聞きながら、日本酒と結城の、あらたな魅力を知るきっかけになるはずです。

 

※この記事は、2020年度開催「ことばを紡ぐゼミ」の受講者により、取材・執筆されました。

取材・執筆:宮下真(東京都江戸川区
生まれも育ちも勤務も東京、勤続30年を機に会社を退職、地方創生、活性化に貢献すべく、活動予定です。

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